実は最初ってCDをつくろう!って思ったわけじゃないんです。僕の会社(株式会社ガハハ)に、グッズ販売の担当ができる優秀な人が来てくれるようになって、それならマーケティングを兼ねてグッズ販売しよう!ってなったのがまず最初のきっかけです。
そしたら、あれ?意外と反応いいやんってなって。
アーティストって意外とファンの名前を知ってるんですけど、歌でもないのに、懐かしい名前の注文が結構あったんですよね。
なので、「あれ?もしかしてトクダケンジのこと待ってるファンって意外とおるんちゃうん」って思ったことがきっかけです。
いえいえ、曲はずっとつくっていました。
それこそ頼まれてもないのに、かどちゃん(門松良祐さん)に曲を書いてみたり、友達の選挙のときにも動画の後ろに流す曲をつくったり。曲づくりは自分にとって、ライフワークなのかなと思います。
会社の仕事もあるのに、「曲つくりたいなー」ってなったら、つくっちゃう。
で、今回は純粋に、自分の曲をつくりました。
トクダケンジの曲は、ポピュリズムを大切にしていて、かっこいいのにかわいい。
例えば、「トントン住もう」とかは、曲中に「トントン住もう のこった のこった」なんていう表現が入っているのですが、お相撲の歌というわけではないですし、歌詞もふざけているわけではないんです。
それはもちろん全く違います。
『スムルース』は3人が集まって、曲もバンドとしての方向性も3人で一緒に決めますし、これまでの歴史があります。
『スムルース』の活動を休止した時点で、自分の中にライブ活動をするイメージが湧かなかったし、いつか『スムルース』を復活するつもりでいたから、ソロ活動は控えめにしておこうと思っていました。
やっぱり『スムルース』やりたいですもん。今年『スムルース』が復活するとなって、でもコロナの影響もあって動くに動けない現状もあり…。
今回のアルバムは、今活動ができない『スムルース』への橋渡し的な意味合いもあるんです。
『スムルース』のトクダケンジの部分を抜いた、メンバーの意見が入っていない、素のまんまの僕を表現しているのが、「ニイ」です。
『スムルース』が活動休止になり、フリーランスになって、会社を興して…。
この10年ぐらいの僕の自叙伝的な位置づけで、これまであった出来事や、家族や仲間のことを8曲の中に込めています。
今は1曲ずつ曲を購入できる時代だから、曲間は何秒にするとか、そういう風に作品をつくるアーティストは減ってきたのかなと思いますが、僕は「ストーリーのあるアルバムづくり」が染み込んでいるんです。
なので2曲目の「アジデル」に行くまでのストーリーとして、この「Inclusion」をつくりました。
そうなんです!アルバムの中で、僕が一番聴いて欲しい曲が「アジデル」です。自分の中で、一番かっこいいやんって思ってます。乾燥肌で粉ふいてるオッサンの主観ですけど(笑)。
自分の歴史を嚙み砕いていったら、味が出るんちゃう?という解釈もあるんですけど、人生ってアップダウンの繰り返しじゃないですか。
僕自身も、難病といわれるギランバレー症候群を発症して、治るまで1年かかるかもしれないし、後遺症もきっと残ると言われたのですが、「何なん?ちょっとおもろいやん」って病気も楽しく捉えられるようになって。
結局3か月で治ったのですが、同じ病気の子から手紙をもらったりするわけですよ。
同じ病気を経験しているので、きっと辛いと思うし、だからこそ僕がこうして活動しているのも励みになると言ってくれて…。
病気だけじゃないですが、「苦しみながら生きている人」や、悩みを抱えている人の気持ちが軽くなるような、そういう事ができるものって歌だけだと思うんです。
この曲は、そういった人達のことを思い浮かべながらつくったので、言葉遣いなども陽気にしました。
はい。これもう災害をテーマにつくっています。防災は一致団結して、大人も子どもも助け合わないといけない。そう考えたときに、思い浮かんだのが「機織り」のイメージでした。
細い糸を織って布になると、細くて弱かった糸が強くなりますよね?人だってそうです。
みんながバラバラだと弱い存在ですが、集まると強くなれます。
災害時でもちゃんと列を作って並んだり、お互いに助け合えるのが日本人の良さ。そういう部分を感じてもらえたら嬉しいです。
この曲の根底にあるのは、チャーリー浜さんへのオマージュです。
チャーリー浜さんってご本人は意識していたのかわからないんですけど、めっちゃ哲学的だと思いません?
「君がいて、僕がいる」って言葉、すごく深いと思っていて、人によって解釈が違う。
そこに僕のオッサンのノリというか、古くて新しい言い方みたいなのを入れてみました。
こういう言い回しが好きなのは、うちのオカンが愛媛出身なのに、たまにふざけて博多弁で「よかたい よかたい」とか言うのですが、きっとそんなオカンのDNAのせいだと思います(笑)。
僕が恋愛の歌をつくる時って、昔から実体験じゃなくて、妄想だったり何人かの話を集約したりしてつくっているのですが、今回のは言うなれば、「オッサンのただの妄想」です(笑)。
この曲の主人公がいいなと思っている女の子が変わっている子で、主人公は理解できない。
海の底の闇の中にいる方が落ち着く、そんな虚無感を抱えた子なんですけど、こういう子が結構僕のタイプです(笑)。
見えるか見えないか、チラリズムじゃないですけど、恋愛の基本ってそういうことだと思うんです。
なんでこの子はこうなん?って考えているうちに、恋に落ちちゃうみたいな。
そういう意味では、いろんな人に共感してもらえる楽曲になっていると思います。
この曲はもう、一言で言っちゃうと「事件です」(笑)。
最初はバラードをつくっていたのですが、寺井氏の「GOLD」のアレンジが、結構なバラードになっちゃって。
ここでバラードがまた入ると全体のバランスがおかしくなってしまうし、先に進めなくなっちゃって、どうしましょうと。
データを起こす時間も迫っている中、「3時間でつくるわ!」と宣言して、3時間でできた曲です。
3時間ある中でも、会社の仕事も同時進行でしていたので、見積書を書いて、お客さんとやりとりをしながらつくるわけです。
だから「まだゆけ」。仕事も音楽も、まだ行かなアカンと思った気持ちがそのまま出ています。
今回のアルバムで唯一、自分の家族のことを書いた曲です。
奥さんの母親がガンで亡くなったことや、自分たち家族のこれまでのことだったりを、ちゃんと曲にしたいと思ってつくりました。
かわいい感じの歌詞なんですけど、結構骨太な部分もあったり。
スタイリッシュでかっこいい直球の曲より、もう一歩中まで覗かないと出てこない深みだったり、味わいだったりのほうが面白いかなと、個人的には感じています。
こういう表現ができる人って意外といない。僕だけの専売特許なのかな。
この曲は、ほぼ寺井氏が作曲してくれました。
いい意味で、スムルースでは絶対にできなかった曲。世界にはこういう曲もあるのだろうけど、自分の中では新しい世界観の曲です。
仲間の意味を、サザエさんの「磯野と中島」で表現しているのですが、そもそも仲間って何だと思います?
一緒にいる時間が長くて、だけど意外と知らない一面もあったり…。
自分たちが思っているより、実はその存在はあやふやで、気が合って時間を共有しているけど、意外とライトな関係なんです。
多くを語る必要はないけど、身近にいる存在が仲間なのかな。
仲間だったり、親友だったり、そういうモノの存在について意図せず書かれている気がします。
「アジデル」が一番聴いて欲しい曲なんですけど、アルバムとしてはこの「いつも遠回り」のことを好きって言ってもらえたら、結構嬉しいですね。
「トントン住もう」は、結構個人的な内容になっていますが、それ以外は皆さんにも当てはまる部分があるのではないでしょうか。音楽って、聴いた場所・時間・その時の年齢によっても印象が変わりますが、僕の曲を聴いてくれた時点で、その人は僕の仲間なんです。
だから仲間には、お腹の中を見せちゃう。
人に対して嘘はつきたくないから、どの曲も僕の本音です。
ただ、わかりやすくしすぎるより、掘り下げたところに本音があったり、全部伝えたいのに伝えたくないちょっと天邪鬼なところもあって。
服は全部脱ぐくせに、乳首だけ隠しているのが僕という人間です(笑)。
「ニイ」は、今の僕の持っている最高の出来栄えになりました。社長にならなかったらできなかったし、スムルースの活動ができない今だからこそできました。
今生きているこの人生、そしてこの環境があるからこそのアルバム。
皆さんも、自分の人生に感謝しながら、ぜひ聴いてください!
(取材:Wakabayashi Hiromi)